最先端研究探訪(とくtalk171号 平成30年4月号より)

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小胞体操作によって凝集体形成を防ぎ、タンパク質凝集体難病を予防する

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難病と聞いて、どんな病気を思い浮かべますか?

アルツハイマー病やパーキンソン病、ALS(筋委縮性側索硬化症)、筋ジストロフィー…。「難病」とはその名の通り、どうしたらいいか分からないうえに、なぜそうなるのかも分からない、原因不明の病。

今、まさに身近な人が難病に苦しんでいるという人もいるかもしれません。

山﨑先生のラボでは、こうした取り付く島もない難病治療の研究に取り組み、難病を引き起こすタンパク質凝集体を作らせない方法と、それを活用することで難病を予防できる可能性を、世界に先駆けて見出しました!

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原因遺伝?は違えど、問題はタンパク質凝集体

例えばアルツハイマー病とALS。
症状は似ていませんが、難病といわれるものには共通する点があります。

細胞の中には核やミトコンドリアなどがあり、それらはタンパク質がぎっしり詰まった中に浮かんでいるような状態です。なんらかの原因でタンパク質が固まることを凝集(ぎょうしゅう)といい、この凝集体が原因でALSやアルツハイマー病が発症し、凝集体がどんどん蓄積することによって症状が進行していきます。

「凝集」という言葉は、あまり耳馴染みがないかもしれませんが、日常生活の中で目にする機会は意外とたくさんあります。

玉子焼きや目玉焼き、焼き肉などは、タンパク質が熱で固まった「凝集」の一例です。
凝集自体が必ずしも悪い現象というわけではなく、本来、人間の細胞内にはタンパク質凝集体が蓄積しないようになっています。

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山﨑先生の研究室のみなさん
まさに最先端研究!ウィキペディアにも掲載

難病治療の研究は「どうして起きるのか」という原因究明と、「どうしたらいいか」という治療方法の確立、この2つの柱で進められています。

山﨑先生は「僕自身、医者をやっていた経験もあり、患者さんのQOL(クオリティ?オブ?ライフ)を少しでも向上させるために最低ラインとして"どうしたらいいか"は知りたい」といいます。

「アルツハイマー病にしてもALS にしても、全身が一気に侵されるものではないので、発症したとしてもタンパク質凝集体が蓄積するのを防ぎ、より多くの健全な細胞をより長く保つことができれば、患者さんのQOLの維持は可能です。

難病治療としてはこれまで、できてしまったタンパク質凝集体をほぐす方法が模索されてきましたが、まだ実用化には至っていません。

この他に『筋肉難病の治療に応用できるのではないか』と考えられる手段が3つ、英語版のウィキペディアに掲載されているんですが、そのうちの1本がウチ なんです。自分でいうのもナンですが、スゴくないですか?英語版だけの掲載なんで、世界中にメチャクチャ広まっているというわけじゃないんですけど」。…スゴイです!!

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小胞体とCLN6が凝集体形成を阻害する

では、どうすればタンパク質凝集体を作らせないで済むのか?

山﨑ラボが提唱するのは、小胞体の活用です。

小胞体はタンパク質や脂肪分を作る役割がありますが、この小胞体の表面にタンパク質(αBクリスタリン)をくっつけると、病原性タンパク質の凝集を防げることができるといいます。

図3のように、小胞体の表面に強制的にタンパク質(αBクリスタリン)をくっつけることで、CLN6からABER2(山﨑ラボによる仮称)が引き離されます。
ABER2という足かせが外れるとCLN6は、αBクリスタリンと助け合って凝集体を作らせないよう、活動し始めます。

「CLN6はこれまでどういった働きをするのか、分かっていませんでしたが、αBクリスタリンを小胞体の表面にくっつけることで、抑制が解かれ、凝集体形成を阻害する力を発揮することが分かりました。それぞれの分子の役割は他にもまだ解明されていない部分が多いのですが、小胞体膜周囲という微小環境を操作することで、筋肉難病の予防につなげる可能性は大きいと思います」。

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基礎医学を研究したい学生大?大?大募集!

3、4年前、アメリカでALSの研究を支援するため、バケツに入った氷水を頭からかぶるアイス?バケツ?チャレンジが話題になりました。有名人や政治家も参加し、SNSを通じて情報が拡散したこともあり、ALSの認知度も高まり、多くの寄附金が集まったニュースは、まだ記憶に新しいのではないでしょうか。

アイス?バケツ?チャレンジの是非はともかく、難病は患者数が少なく、一般的な病気に比べると研究の優先順位も低いため、難病治療に必要なコストと人材を確保するのはとても難しい状況にあるといいます。

「病気ごとに原因が違うので、例えばアルツハイマー病に効く薬やタンパク質を探しだせたにしても、他の病気には使えそうにありません。そうなると病気の数だけ有効な対策を打ち出すが必要がありますが、容易なことではありません。どうやら私たちの開発した方法はオールマイティに活用できそうなんです。

研究結果を独り占めするつもりはまったくありませんが、せっかくここで見つけた研究を、なんとかカタチにしたい。医者を目指すのではなく、基礎医学の研究をやりたい学生は、ぜひうちのラボに入って来て欲しい。徳島でもこうした研究ができることを、ぜひ知って欲しい」と話す山﨑先生。

難病治療に役立つ新薬が徳島から生まれるのも夢ではない…。今後も山﨑先生の研究から目が離せません。

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山﨑 哲男(やまざき てつお)のプロフィール

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  • 大学院医歯薬学研究部
  • 薬学域 教授
  • 千葉大学医学部医学科卒。
  • 2009年より現職。専門は生化学。

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[取材] 171号(平成30年4月号より)

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