最先端研究探訪 (とくtalk129号 平成19年10月号より)

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細井和雄氏

大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 口腔分子生理学分野
細井 和雄 ほそい かずお

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口の中は唾液腺によって守られている

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唾液はどこからやってくるのか

犬など動物は傷を負ったとき、傷口を熱心になめるのを見たことがあるかと思います。唾液に殺菌作用があることは古くから知られていることです。

唾液は、個人差はありますが、一日平均1.5リットルも出ているそうです。そしてもしも唾液がなければ、歯はすぐにでも虫歯だらけになるのです。

ではこの唾液はどこから出てくるのか、どのようにして殺菌作用を持つのか。このメカニズムを研究テーマのひとつとして探求しているのが、今回紹介する細井先生です。

人の体は50~60%が水分です。これは水がいかに大切な要素であるかという証でもあります。

唾液を出すのは唾液腺ですが、その水分がどこをどう通って唾液腺まで来て口へ分泌されるのか。あるいは人の体の中で水分はどのように循環しているのか。口から採られた水が胃腸で吸収され、血液によって体内を循環することは知られていたことです。水は細胞の内外も行き来しますが、これは単に細胞膜がもっている半透膜の性質に基づいておこるだけと考えられていました。

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体内の水移動を司るタンパク質

細胞膜内外の浸透圧の差を利用して水分子を透過させ、体内の水の移動において鍵となる重要な水チャネル(穴)タンパク質、アクアポリンが発見されたのはアメリカのピーター?アグレ教授によって、なんとつい最近、20世紀も終わりの1992年でした。教授はこの発見により2003年にノーベル化学賞を受賞しています。

以来、このアクアポリンは哺乳動物では13種類あることが発見され、水以外にグリセリンやアンモニア、イオンなどを通過させるものまで存在し、体の主要な部分で水分をコントロールしていることがわかりました。

この発見は多くの学者に新しい研究の課題を提供しました。

細井先生もその一人です。生化学で博士号を取得した先生は、1998年頃から、口腔分子生理学の立場から唾液分泌のメカニズムとして水チャネルの研究を始めました。

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第5回アクアポリン国際学会(2007年7月、奈良)にて、ピーター?アグレ教授とともに撮影

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口の中を殺菌するサイトカイン

口の中ではToll-like receptor(TLR)という細胞膜受容体を介した炎症性のサイトカイン(免疫の反応などによって細胞から体液中に分泌される蛋白質)の分泌が自然免疫において重要な働きを演じています。細井先生の研究室では、口の中の健康は「口腔|唾液腺系」により維持されるとの仮説のもと、口腔の防御システム(殺菌作用)に関する研究を行っています。

アクアポリンの働きにより唾液が分泌し、口の中は清潔に保たれていますが、唾液腺は水以外にも、口腔粘膜に直接作用して細菌?微生物の発生を抑制するサイトカインも分泌させています。

サイトカインはホルモンと同じ蛋白質なので、その設計図は遺伝子に書き込まれていて、免疫反応などで特定のサイトカイン遺伝子のスイッチが入ると、サイトカインが合成されて分泌されます。

最初に発見されたサイトカインは、皆さんも名前は聞いたことがあると思いますが、ウイルスの増殖を抑制するインターフェロンです。このように様々な生理活性をもった一群の蛋白質の総称がサイトカインで、病気の治療や新薬の開発に大きく関係しているのです。

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細井氏と研究スタッフ

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国際色豊かな研究室で

細井先生は、唾液腺の発生と分化のメカニズムを探る中で、ラットを使った実験でDNA(遺伝子)異常によるアクアポリンの減少を発見。このメカニズムが解明されれば、人の病気の治癒にも大きく貢献することになります。

「新しい分野だから何が出てくるのかわからないのですが、今後は今の研究を発展させて、レベルを高めていきたい」という細井先生の研究室には、世界中から留学生が訪れています。現在もモンテネグロやインドネシア、マレーシア、中国、バングラディシュからの留学生が学んでおり、先生の研究に対する期待の高さと発展が注目されていることがうかがえます。

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[取材] 129号(平成19年10月号より)

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