最先端研究探訪 (とくtalk140号 平成22年7月号より)

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大学院ヘルスバイオサイエンス研究部分子情報薬理学分野
福井 裕行 ふくい ひろゆき

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生薬の効果を化学(科学)で裏付け
薬の未来を大きく発展させる

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ヒスタミンと受容体の働き

ヒスタミンという名前を聞いたことがあるでしょうか。ヒスタミンは食物から直接体内に取り込まれたり、体内で合成される化学物質です。花粉症やアレルギーの治療をされている方は、薬品の一般名で書かれていますが、抗ヒスタミン薬が投薬されているのを見ると思います。ヒスタミンを抑制する薬ということですから、ヒスタミンはそういう病気の一因となっているということです。 こう書くとヒスタミンは悪いもののようですが、人の体内にある物質はすべからく必要なものであり、微妙なバランスの上に成り立っているわけで、これらが暴走するとアレルギー疾患や消化性潰瘍などのやっかいな病気の原因となるわけです。

ヒスタミンは皮膚、粘膜、肺、消化管、胃、脳など多くの組織に存在し、それぞれの役割を果たしています。皮膚、粘膜、肺、消化管などに存在するヒスタミンは免疫機能に働いていますが、アレルギー疾患ではヒスタミンの暴走により症状を引き起こします。ところが、目が覚めている、というのは脳のヒスタミンの作用(も大いに関係しています)です。抗ヒスタミン薬を服用すると眠くなるのはその働きが抑えられるためです。 ヒスタミンのような体内の化学物質が作用するために、それぞれに『受容体』というタンパク質が存在し、結合する必要があります。

ヒスタミンの受容体は現在、H1型~H4型と呼ばれる『Gタンパク質共役型受容体』である4種のサブタイプが発見されており、それぞれ受容体により作用が違います。

ヒスタミンは4種のサブタイプを介して、先に書きました皮膚や粘膜における免疫に対する作用をはじめ、胃では胃酸分泌促進作用、脳では覚醒作用、食欲の調節、飲水の調節、体温の調節、平衡感覚の調節、神経内分泌の調節、けいれんの抑制、あるいは記憶学習能に作用する大事な物質です。とはいえ、その働きの全てがわかっているわけではありません。

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世界で初めてヒスタミン受容体の構造を解明

福井先生は薬理学全般にわたる研究を行っていますが、中でもヒスタミンの受容体となる『ヒスタミンH1受容体』を介する情報伝達の分子レベルの研究において最先端にあり、その構造を世界で初めて明らかにした実績があります。

『ヒスタミン受容体』や『蛋白キナーゼCによるヒスタミンH1受容体シグナリングの調節』、『ヒスタミン』、『脳と神経科学シリーズ第4巻 神経伝達物質ー受容体の分子機構と病態』、『ヒスタミン受容体の分子生物学』など、ヒスタミンに関する著書が多数あり、1995年度の『日本生化学会JB論文賞』を受賞しています。

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人類の知恵を化学的に証明する

ヒスタミンの研究をする中で、福井先生は東洋医学、いわゆる漢方で使われる生薬にも注目しました。漢方は人の経験から生まれてきた医学と言えます。数千年にわたる人類の知識と知恵、多くの犠牲などを経て確立されてきたものです。
「生薬の効果は認められているのですが、裏付けされた研究データはあまりありません。薬は扱い方を間違えば毒にもなるわけです。しかしながら生薬を科学的に研究して、系統立てて解明していくことが、新しい薬の開発にも大きな進歩をもたらすと考えています」
「アレルギーに効く生薬の中から、ヒスタミン受容体の数を減らす働きをする物質を数種類同定しています。生薬を新しい考え方と新しい実験技術で取り組むことにより、これからの薬学の新しい研究モデルとなれば、と思って取り組んでいます」

ヒスタミンをきっかけとした先生の研究は、他の薬学の先生方とも協力しながら、西洋医学と東洋医学の融合という、新たな薬の未来を拓こうとしています。

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福井 裕行氏のプロフィール

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  • 1973年3月 大阪大学医学部卒業
  • 1977年3月 大阪大学大学院医学研究科博士課程修了
  • 1985年6月 大阪大学医学部第二薬理学助教授
  • 1998年2月 徳島大学薬学部薬物学教授
  • 2004年4月 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部分子情報薬理学分野 教授

[取材] 140号(平成22年7月号より)

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