最先端研究探訪 (とくtalk141号 平成23年10月号より)

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大学院ソシオテクノサイエンス研究部 情報ソリューション部門
陶山 史朗 [教授] すやま しろう
山本 裕紹 [講師] やまもと ひろつぐ

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3D映像の未来を拓く
二人の出会いで思考も3Dに

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3D映像の研究で世界初の最先端を行く

昨年大ヒットした映画「アバター」は、3D映像への火付け役となり、今年に入って一般家庭でも3Dが楽しめる大型テレビが次々と登場。本年は「3D元年」と言われています。

3D映像と言えば、かつては青と赤のレンズ(フィルム)のメガネをかけて見る「アナグリフ方式」と呼ばれるものが主流でしたが、色調に問題がありうまく3Dに見えない方もおられたようです。しかし現在のものは、人の目で見ているような、自然に近い3D感が得られます。

3D映画や3Dテレビは人が左右の視覚差を利用してものを立体的に見ているということを応用した技術です。「フレームシーケンシャル方式」というもので、現在の3Dテレビは、ほぼこの方式です。高速で左右のシャッターが開閉するメガネをかけるのが特徴ですが、長時間使うと目が疲れるとか気分が悪くなるという人もいます。これがなければどんなに見やすいでしょうか。

この近未来の3D映像に挑戦しているのが陶山先生と山本先生です。しかも今開発研究されているのは、野球場やサッカースタジアムにあるような超大画面です。大勢の人が一度に、あのメガネなしに3D映像が見られるということがどれだけすごいことでしょうか。例えば東京ドームのような場所でのコンサート。たいていは演奏者が小さくて見えないために、バックに大画面を置いていますが、ライブの雰囲気をのぞけばまるで家でテレビを見ているようなものです。あれが3D映像だったらどれだけ臨場感があるでしょうか。大きなビルの広告のための大画面が3Dだったら???。映画などで、パソコンの画面を空中で扱うシーンが出てきたりしますが、そんなことももう遠い未来の話ではありません。

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多くの分野に応用

山本先生の研究室に設置されているのは、LEDを使った大画面。この前に立つと映像がメガネなしに飛び出してきます。LEDは1秒間に1千万回以上も高速に点灯できることや、明るく省電力で寿命も長いことから大画面に向いています。その前にはメガネに代わる格子状のスクリーンが置かれています。ただ現状では、まだ見る位置が限られることなど課題もありますが、近い将来、実用的なものとなり、さらには家庭でもメガネなしで見られるテレビが登場することでしょう。

陶山先生の研究室では、様々な方法で3D映像の研究が進められています。例えば特殊なレンズの前に映像が3Dで浮かび上がるもの。従来の平面映像を3Dに見えるようにする研究など、多角的にアプローチしています。

光を利用した工学技術をフォトニクスと言いますが、お二人はその中で3Dフォトニクスや情報フォトニクスといった分野に取り組み、そこから生まれた「可変焦点レンズの研究」「新しい原理に基づく三次元表示の研究」「LEDによる公衆3Dテレビの研究」は、いずれも世界初の技術です。 例えばひとつの画面で大勢の人が違う映像を見る技術。すでに車のナビゲーターなどに応用されていますが、これは運転手と助手席で見える映像が違うものですが、これがもっと複数の人でそれぞれ違う映像が見られるというのは、いったいどんなものなのでしょう。 あるいは銀行のATMなどに使われているのぞき見防止のフィルム。これを画面で実現するとさらに高度なセキュリティとなります。デジタルカメラの顔認識技術を発展させたセキュリティシステムは、現在のカードなどによるものより高度な情報管理に役立ちます。

さらに超短パルスレーザーを使ったホログラフィーや、重ね方によって全く別の絵や文字が見える光暗号フィルム、DNAと光を使ったコンピュータなど、新しい光情報処理にも挑戦を続けられています。 LEDと液晶、レンズを使って光を自由自在に扱うことを得意とする研究室ということで、紫外LEDの医療応用に関する光学系について医学部や歯学部との連携も進められています。

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画期的な二人の出会い

大胆かつ繊細で常にチャレンジ精神旺盛な陶山先生と、あきらめない根性と努力?情熱の山本先生。 大学で物理学を学んだ陶山先生は、NTTという大きな企業の中でフォトニクス研究の道へ。山本先生は計数工学を専攻しながらも現在の研究の道へ。それまで学会では顔を合わすこともありましたが、まさか徳大で共に研究をするようになるとは思っていなかったでしょう。それが3年前に陶山先生が徳大に。この出会いは、まさに映像が平面から3Dになったぐらいに画期的でした。

出張の移動中やお酒の席でも、「研究のアイデアが次々と出てきては盛り上がり、夢が膨らんでいきます」と山本先生。陶山先生は、「話をしているととても刺激になり、お互いに持っているものを引き出せるんです」と、歳の差はありますが、それを感じないほど息もぴったりのパートナーです。

このようにお二人の研究から発展していく技術は、医療をはじめ、まだまだ様々な分野への応用へも考えられており、私たちの未来にときめきと楽しみを感じさせてくれます。

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陶山 史朗のプロフィール

生年1956年

  • 1979年 九州大学理学部物理学科 卒業
  • 1981年 九州大学応用物理学専攻修士課程 修了
    日本電信電話公社 入社
  • 1990年 工学博士
  • 2007年 徳島大学 教授

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山本 裕紹のプロフィール

生年1971年

  • 1994年 東京大学工学部計数工学科 卒業
  • 1996年 東京大学計数工学専攻修士課程 修了
  • 1996年 徳島大学 助手
  • 2009年 徳島大学 講師

[取材] 141号(平成22年10月号より)

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